【退職金の相場とは？】ケース別の相場や受け取り方・税金対策も徹底解説

退職は人生の大きな転機であり、退職金は将来の生活設計に影響を与えます。しかし、多くの人が退職金の相場や計算方法について詳しく知る機会がありません。

本記事では、退職金の相場や計算方法、受け取り方などについて詳しく解説します。記事を読めば、自分の退職金が適正かどうかがわかり、最適な受け取り方や税金対策について学べます。

退職金の相場

退職金の相場に影響を及ぼす要素は、企業規模や業種、勤続年数、学歴、性別などです。それぞれの要素に分けて、退職金の相場を確認しましょう。

大企業の退職金相場

大企業の退職金相場は、従業員の数や職位によって大きく変わります。従業員が1,000人以上の大企業では、2,000〜2,500万円程度が退職金の相場です。職位が上がるほど退職金も増加し、部長クラスでは3,000万円以上が一般的です。1億円を超えるケースもありますが、ごく一部の経営幹部に限られます。

中小企業の退職金相場

中小企業の退職金の相場は、大企業と比べて低い傾向にあります。従業員300人未満の企業では、約700万円が退職金の相場です。経営状況により、退職金が減額される場合もあります。職位や貢献度、地域も退職金に影響を及ぼす要素です。

業種別の退職金相場

業種別では金融・保険業の退職金が最も高く、サービス業や飲食店、宿泊業の退職金は低い傾向にあります。具体的な業種別の退職金相場は、以下のとおりです。

業種	平均退職金(円)
金融・保険業	2,500万
電気・ガス・熱供給・水道業	2,200万
製造業	2,000万
サービス業	1,400万
運輸業	1,300万
飲食・宿泊業	900万
建設業	1,800万
情報通信業	1,700万
卸売・小売業	1,500万
不動産業	1,600万
教育・学習支援業	1,200万
医療・福祉業	1,100万

実際の退職金は、企業規模や勤続年数、職位などによって大きく異なります。自分の退職金が具体的に知りたい場合は、所属する企業の人事部門に確認しましょう。

勤続年数別の退職金相場

勤続年数が長いほど、退職金の金額が増加する傾向にあります。勤続年数別の退職金相場は、以下のとおりです。

勤続年数	平均退職金(円)
5年未満	50万
5～10年	150～300万
10～15年	300～500万
15～20年	500～800万
20～25年	800～1,200万
25～30年	1,200～1,800万
30～35年	1,800～2,500万
35年以上	2,500～3,500万

大企業では勤続年数による差が大きいのに対し、中小企業では勤続年数による差は小さいです。

学歴別の退職金相場

学歴が高いほど退職金が高くなる傾向があります。平均的な金額の差は以下のとおりです。

金額の差には初任給や昇進スピードの違いが影響しています。近年では学歴よりも個人の成果や能力を重視する企業が増えており、特に中小企業では学歴による退職金の差は小さいです。学歴による退職金の相場は参考程度に考え、自身の能力を高めましょう。

男女別の退職金相場

男性の退職金相場は2,329万円、女性は1,282万円です。男女差は約1,000万円以上あります。格差の主な理由は、管理職比率の違いや10〜20%の賃金差、女性の平均勤続年数の短さです。勤続年数が長いほど、男女差が拡大する傾向にありましたが、近年では格差が縮小しつつあります。

退職金の計算方法

退職金の計算方法は、企業によって異なります。勤続年数が長く職位が高いほど、退職金が増える場合が多いです。

退職金の基本的な計算方法

退職金の計算で基準となるのは、主に勤続年数と給与です。具体的な計算方法は会社によって異なりますが、以下のような方式があります。

退職金の計算方法を知ると、将来の資金計画を立てやすいです。自分の所属する企業がどの方式を採用しているか、確認しましょう。

年功序列型の退職金計算方法

年功序列型の退職金計算方法は、勤続年数と基本給を基準に計算します。長く勤めるほど退職金が増える点が特徴です。具体的には「退職時の基本給×勤続年数×支給率」の計算式で求めます。支給率は勤続年数に応じて上昇します。年功序列型の退職金計算方法の特徴は、以下のとおりです。

年功序列型の退職金計算方法は、会社への貢献度を長期的に評価する方法でもあります。一般的には、労使協定や就業規則で具体的な計算方法が定められており、企業によって制度が異なります。

成果報酬型の退職金計算方法

成果報酬型の退職金計算方法は、従業員の業績や貢献度に応じて退職金を決定する仕組みです。個人の成果や会社の業績が退職金に反映されるため、従来の年功序列型とは異なる特徴があります。計算方法の特徴は、以下のとおりです。

成果報酬型の退職金計算では、短期的な貢献度だけでなく長期的な貢献度も評価されます。評価基準の透明性が重要です。成果報酬型のメリットは、若手社員にとって有利な場合がある点です。ただし、会社の業績によって支給額が変動する可能性に注意してください。

退職金の受け取り方

退職金の受け取り方には、主に一時金と年金の2つの方法があります。それぞれにメリットとデメリットがあり、一概にどちらが有利とは言えません。個人の状況や将来の経済状況、資金運用能力によって最適な方法を選択することが大切です。

一時金

退職金を一時金として受け取る方法は、退職時に退職金全額を一括で受け取れます。即時に多額の資金を手にできる点がメリットです。一時金は以下のように活用できます。

一時金で受け取る方法は、退職所得控除を最大限活用できるため、税金面での優遇が大きいです。年金と比較すると受取総額は少ない場合が多いですが、うまく運用できれば受取総額を増やせます。使いすぎてしまうリスクや、受け取った後の資金管理に注意が必要です。

年金

退職金を年金として、分割で受け取る方法です。一時金よりも受取総額が多くなる傾向があります。受け取っていない分の運用益が加算され、長期的には受取総額が増える可能性があるためです。

退職金の受取時にかかる税金

退職金を受け取る際には税金がかかります。退職金は「退職所得」として課税され、給与所得とは異なる特別な計算方法が適用されます。

退職金にかかる税金の種類

退職金にかかる税金は、以下の3種類です。

所得税は国に納める税金です。退職金の額に応じて税率が決まります。復興特別所得税は東日本大震災からの復興のために設けられ、所得税と一緒に徴収されます。住民税は地方自治体に納める税金です。税額は退職金の額や受け取り方によって変動します。

退職金にかかる税金の計算には退職所得控除という仕組みがあり、一定額を課税対象から差し引く制度です。控除後の金額が退職所得の金額となり、退職所得額に基づいて税金が計算されます。実際の徴収は、会社が源泉徴収の形で行います。退職金は通常の給与とは別に分離課税されるため、他の所得と合算されない点が特徴です。
» 退職後に必要な手続きと税金対策

退職所得控除の仕組みと計算方法

退職所得控除は、退職金から一定額を非課税対象として差し引き、控除後の金額をもとに税金が計算される制度です。長年働いた対価である退職金にかかる税金を軽減する目的があります。勤続年数が長いほど控除額が大きいです。

勤続年数が20年以下の場合の控除額は、1年当たり40万円です。20年以上の場合には、20年までは1年当たり40万円、20年を超えた分は1年当たり70万円が控除額として計算されます。控除額の具体的な計算例は以下のとおりです。

障害者として退職する場合には、上記の計算結果に100万円を加算します。役員などの場合は、異なる計算方法が適用されるので注意が必要です。退職金から控除額を差し引いた金額の半分に対して、所得税と住民税が課税されます。控除額が退職金を超える場合は課税されません。

同じ年に複数の会社からの退職金がある場合には、勤続年数を合算して計算します。勤続年数に1年未満の端数があるときは、端数を切り上げて年単位にして計算します。

手取り額を増やすための税金対策

退職金の税金を適切に管理すれば、手取り額を増やすことが可能です。具体的な税金対策として、以下の方法があります。

退職金を分割して受け取る方法は、一度に大きな額を受け取ることで生じる高額な税金を抑えるのに効果的です。複数年度に分けて受け取ることで、各年度の課税対象額を低く抑えられます。退職所得控除の活用も重要です。勤続年数に応じて控除額が増えるので、長く勤めるほど控除額が増えます。

退職年度の給与所得を調整する方法も有効です。退職金と給与所得を合わせた金額によって税率が変わるため、退職時期を調整すると、税負担を軽減できます。退職金の受取時期の調整も効果的です。年度をまたいで受け取ることで、税金の計算に有利な場合があります。

退職金の相場に関するよくある質問

退職金の相場に関する疑問や不安を解消するため、よくある質問と回答をまとめました。

自己都合退職と会社都合退職で退職金の相場は変わる？

自己都合退職と会社都合退職では、退職金の相場に違いがあります。自己都合退職の場合には退職金が減額されるケースが多く、20〜30%程度の減額が一般的です。会社都合退職では、全額が支払われる場合が多いです。ただし、あくまでも傾向であり、会社の規定によって減額率が異なります。

退職金が少ないときはどうすればいい？

退職金が少ない場合でも、適切な対策を講じれば、将来の生活に備えられます。具体的な対策方法を以下にまとめました。

対策方法	詳細	メリット	注意点
財形貯蓄	企業が提供する貯蓄制度	所得税・住民税の非課税になる(※一定条件)	財形制度を導入している企業のみ利用可能
個人型確定拠出年金(iDeCo)	自分で掛金を設定し積立てる	掛金が全額所得控除	60歳まで引き出せない
新NISA	投資による利益が非課税になる	運用益が非課税	元本割れのリスクがある
退職金制度のある企業への転職	退職金制度が整った企業への転職	安定した退職金を確保できる	全員が高額な退職金を受け取れる保証がない
保険加入	個人年金保険や終身保険の活用	老後資金や遺族保障を確保できる	保険料の支払いが長期にわたる
退職金以外の資産(不動産、株式など)の活用	不動産や株式などの資産を運用	多様な収入源を確保できる	株式や不動産の価格変動リスクがある

退職金の不足を補うためには、財形貯蓄や資産運用が有効です。個人型確定拠出年金(iDeCo)や新NISAなどの税制優遇制度を活用し、長期的な資産形成を目指しましょう。退職金制度のある企業への転職も選択肢の一つです。公的保険について理解を深めたうえで、退職後の医療費や介護費用に備えた保険加入も検討しましょう。
» 転職活動を成功させるコツ

退職金が支払われないときの対処法は？

退職金が支払われない場合には、労使間で話し合うことが重要です。、職金規定や就業規則を確認し、労働基準監督署や労働組合への相談も検討してください。話し合いで解決しない場合には、法的手段を検討しましょう。労働審判の申し立てや民事訴訟の提起が有効な選択肢です。

会社の経営状況を確認し、分割払いなどの代替案を提案する方法もあります。退職金の代わりに他の形での補償を求めるのも選択肢の一つです。退職金請求権の消滅時効は10年のため、早めの対応が大切です。状況に応じて最適な方法を選び、粘り強く交渉しましょう。

まとめ

退職金の相場や計算方法、受け取り方、税金について詳しく解説しました。退職金は企業規模や業種、勤続年数などによって大きく異なり、一般的に大企業の方が中小企業より高額です。計算方法には年功序列型と成果報酬型があり、受け取り方は一時金と年金から選べます。

退職金には退職所得税がかかりますが、退職所得控除を活用することで税負担を抑えられます。自己都合退職と会社都合退職の場合では、受け取れる金額が変わるため、注意が必要です。退職金が少ない場合は、交渉や専門家への相談を検討してください。退職金制度をよく理解し、自分に合った受け取り方を選択しましょう。